鼠径ヘルニア
疾患の概要
ヘルニアとは、臓器や組織が本来の位置から脱出した状態をいいます。
鼠経ヘルニアの場合は、脚の付け根にある鼠径部という場所に筋肉の「隙間」ができてしまい、腹腔内(おなかのなか)の組織、臓器が皮膚の下に脱出している状態です。
多くの場合、脱出しているのは腹腔内の脂肪や大網ですが、腸管が脱出することもあります。
脱出したヘルニアがもとに戻らなくなることを「嵌頓:かんとん」といいます。この場合は脱出した組織が壊死することがあるため緊急手術が必要となります。
「嵌頓」していない場合は、筋肉の「隙間」を閉鎖する手術が治療法となります。
症状
- おなかの一番下の真ん中にある恥骨という骨の左右に柔らかい出っ張りがある。
- 恥骨の左右のどちらかがチクチクいたむ
- おならが出る前、大便が出る前には恥骨の左右が膨らむ
- 歩く時に足の付根がズキズキ痛む 等
治療が必要な時期
「嵌頓」していない限りは大急ぎで治療をする必要はありません。
ただし、手術せずに治ることはありませんので、症状が気になっている場合は一度ご相談ください。
手術方法
様々な手術方法がありますが、基本的には網状のシートを用いて、筋肉の「隙間」を閉鎖することが手術方法となります。
鼠経ヘルニアは片側だけしか症状がない場合でも、10%~20%程度の確率で反対側にもヘルニアがある場合があります。
腹腔鏡を用いた手術の場合は、同時に両方の手術が可能なため、いままでに腹部手術を受けていない方には、腹腔鏡下手術をお勧めします。
手術の合併症
(1) 出血(術中出血、後出血):
術中の出血は止血可能ですが、術後に出血が明らかとなる場合があり、これを後出血といいます。多くの場合圧迫等で止血可能ですが、場合によっては再手術を行う可能性もあります。
(2) 感染(創感染、メッシュの感染):
術後早期には傷が感染する創感染や、腹腔内に感染する腹腔内膿瘍の可能性があります。それぞれ、抗生物質投与にて予防を行い、必要であれば、 膿瘍ドレナージ等で対応します。
稀ではありますが、術後長期間経過していても何らかの理由で挿入したメッシュに感染することがあります。これが明らかとなればメッシュの摘出術を行う可能性もあります。
(3) 水腫、気腫:
挿入したメッシュへの異物反応として水腫が生じる場合があります。経過観察が基本となりますが、穿刺ドレナージも検討します。
また、腹腔鏡下手術を行った場合には、手術部に空気が溜まる皮下気腫という状態になることがあります。これについては、数日間で吸収されることがほとんどです。
(4) 再発(同側、対側、その他):
鼠経ヘルニアを手術したことにより、ほかの部分の筋肉の「隙間」から別のヘルニアが発生することもあります。その場合はそれぞれの手術を検討します。
その他の合併症が生じた場合にも、説明の上対応いたします。
入院期間
手術後2日目に退院できることが一般的です。
退院後は日常生活に制限はありません。